トートの書物

適当に書きます。

ヒストリエ 10巻

自分の知らない物語は無数に存在する。

その全てを知ることはできないだろうし、また知る意味もない。

だが知りたいと思うことはいつでもできるし、また物語が書物として無数にあるが故、どこかの物語を読むことはできる。

 

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歴史を学ぶというとなんたらかんたら条約とかうんたらかんたら王朝とか、そういう字面を眺め、覚えるという作業が多くなる。

その条約のためにどれだけの人間がくたばり、またどれだけのその場しのぎの知恵が絞られたかというのはあまり重要ではなく、せいぜいその背景をチラッと舐める程度のものだ。

勿論これは歴史ではなくフィクションというくくりなのだが、その歴史の背景を考え、史実を取り入れつつ物語として昇華させ、作品として発表したこのヒストリエはとても面白い。

「地平線まで続く自由などありえない」

自分もこんなこと言われてプロポーズを断られたいものだと思うが、書を好み猫を呼び寄せる能力を持った少年が成長し、最初は自分から、2度目は相手から、状況によって自由という意思を貫けない様を見ると作者鬼だな~と思いつつ、そのあとすぐに「おっしゃ逃げてマケドニアに逆襲」とか考えてる淡々とした軽さがテンポ良い。

正直、世界史の特にこの時期についてはほとんど勉強した覚えがない。

世界史と言えばこの物語に時代的に近いが、最近薦められて塩野七生氏の「ギリシア人の物語」の1巻と2巻を読んだが、2000年前から人は愚かだな~と感じたくらいだ。3巻まだかな。

だがこのヒストリエのように聞いたこともないような史実を物語として昇華させ、作品を読めるというのは、とても幸せなことだ。

ちなみに本巻で一番笑ったのは、カイロネイアの戦いで王子が敵陣形後方に回りこみ撫で切り駆けをし、手持ちの剣が折れちゃったのでよっこらせとてくてく歩いて敵の死体から剣をはぎ取っている時に、死体から盾が落ち地面で撓んでいる時の効果音が「わんわんわんわん」と子犬が鳴いてるようなかわいらしいフォントだったことだ。

多分これ、盾みたいなの地面に落として音が犬っぽいな~と実験したんだろうな~と、実験してる作者のおっさんを想像したら笑えた。